カクレミノムシ

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カクレミノムシ

ハルトは気が優しく誰とでも笑顔でお話しする気配り上手な男の子。だけど最近はちょっぴり照れ屋でシャイな年頃になりました。

これはみんなの暮らす町にもにありふれた、なんの変哲もないお話です。


カクレミノムシ

ハルトの毎日の楽しみは親友のノブオと遊ぶことです。

最近みんなのひろばの男の子たちの間ではヨーヨーというおもちゃが流行中。その腕前をノブオと競い合っては日が暮れて、晩ご飯をたらふく食べてはぐっすり眠り、またみんなのひろばに遊びに行くという毎日を過ごしています。

そんなある日です。「よ~~~う!ノブオ!」


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ハルトとじゃれあうノブオに声をかけたのはみんなのひろばで噂のわんぱく3人組、ハーデルとノポ、そしてマクロでした。3人はいつも、たちの悪いイタズラを企ててはひろばの仲間たちをからかって遊んでいました。

いつもなら用心深く、3人組から離れたところで遊ぶハルトとノブオでしたが、彼らが近づいてくるのも気付かないぐらい夢中で遊んでしまっていたのです。すると…


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チョッキン!!

マクロは突然に、おもむろに取り出したハサミでノブオの重めの前髪を切ってしまったのです。

「お前の頭、ヘルメットみたいだったからもっと周りの景色が見えるようにしてやったぞ!…んん?…なんだよその星みたいなやつ!変なの!ははは!」

切られた前髪からはお星さまのような形をしたホクロが恥ずかしそうにその姿をみせました。ノブオはそんなヘンテコなホクロを気にしていたのです。それをみたハルトは恐くて恐ろしくて、3人組の大笑いに流されるように眉毛をハの字にして苦笑いをするしかありませんでした。


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その日の夜、ハルトはおうちで頭を抱えて悩んでいました。

「僕のこのザリガニヘアー。あいつらにバカにされたらどうしよう…。」

お母さんが”ザリガニちゃん”とかわいがってくれてるクセっ毛を、ハルトは急に気にしはじめました。けれどもしばらく悩んだハルトには名案が思い浮かびます。


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次の日からハルトは大きな箱をみんなのひろばに持っていき、大きく空けた窓からみんなの遊ぶ姿を眺めて過ごすことにしました。これだとザリガニヘアーをみられることもないですし、自分の存在を知られることもないので安全です。箱の中はあたたかく、急にサッカーボールが飛んできても、通り雨が降ったり冷たい北風が葉っぱを吹き飛ばしてもへっちゃらでとても居心地の良いものでした。

そんなある日のことです…。


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フワフワヘアーがチャーミングな女の子、クラウディアが箱に入ったハルトに話しかけました。

「ねぇ、あなた。どうして箱の中に閉じこもってるの?それじゃあ、お顔も見えないしみんなと遊ぶこともできないじゃない。箱から出てきて遊びましょうよ。」

なんだかクラウディアの陽気で素直な言葉はコンプレックスをつっつくようで、ハルトは反論するようにこう言ってしまいました。


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「かまわないでくれよ。僕はこの箱の中にいたいんだ。それより君のヘアースタイル、まるで空に浮かぶ雲みたいだ。君の髪の毛と後ろに見える雲が重なると、君までお空に飛んでいっちゃいそうだね。」

それを聞いたクラウディアはひどく傷ついたようで「ひどい!」と吐きすてると、泣きながら走り去ってしまいました。

ハルトは気が強そうに見えた彼女の意外な反応に戸惑いながらも、安全な箱の窓から放り投げてしまった軽はずみな言葉すら拾いにいく勇気さえなく、ただただ箱の中で後悔するのでした。


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自分の言葉が思いもよらずお友達を傷つけてしまったハルトは、ただただクラウディアが箱の前に戻ってはこないかと悶々としながら待ち続けました。箱から飛び出せば小さな小さなみんなのひろばで彼女を見つけ出し「ごめんね」の言葉をかけるのは簡単なことなのですが…。

そんなハルトの前にひとりのお友達がやってきました。


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現れたのはなんとあのハーデルです。

「ねえ。君が誰だか知らないけど俺の悩みを聞いてくれるかい?僕の歯はみんなのよりも長くてなんだか恥ずかしいんだ。」

ハルトはビックリしました。彼の誰にもみせない弱い一面を目の当たりにしたからです。気の優しいハルトはこう返事をしました。

「君のことは知ってるよ。箱の中からみんなの遊ぶ姿を毎日見ているからね。でも驚いた。君に言われるまで君の歯が長いことに気がつかなかったからさ。言われてみると…う~ん、まあちょっとだけ長いのかな。」

その言葉にハーデルは「え?」と拍子抜けした様子をみせた後にどんよりとした顔も一変、雲間から太陽の光が差し込むような笑顔でみんなのもとへと駆けていきました。


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明くる日にやってきたのはノポ。意外や意外、彼もまたハーデルのように大きな背を気にしてると言うのです。

「うらやましいよ。その身長なら君のお母さんが夕ご飯の支度をするときに家の煙突から出るおいしい湯気を誰よりも早く見つけて誰よりも早くたらふくご飯が食べられるだろうからね。」

そう言ってハルトはノポのうれしそうな後ろ姿を見送りました。


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次の日にやってきたマクロには

「君が運動神経が抜群なのはお日様が照りつける日もかまわずに練習を重ねた証拠だね。日に焼けたその肌は勲章だよ。」

とこたえました。


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「なんだか僕の悩みなんてみんなにとっちゃどうでもいいのかもしれないな…。」

みんなの相談にのる毎日の中でハルトの憂鬱と不安はどんどん消えていくようでした。そしてハルトは決心したのです。

「よしっ!」


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ハルトの心を守りつづけた箱に少し後ろ髪を引かれながらも、ハルトは勇気をふりしぼって裸一貫飛び出すことを決意するのです。

久々に全身で受け止める強く冷たい風が時おりハルトを弱気にさせます。それでもギュッと歯を食いしばりハルトはみんなの遊ぶひろばへと歩きつづけます。

「お~~~~~い!」

そんなハルトに懐かしい声が聞こえてきました。


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その声の先には顔なじみのみんなが待ってました。

「どこいってたんだよハルト!」

みんなの笑顔はなんだか清々しくてハルトを安心させました。おでこのホクロがチャーミングなノブオにはどうやら「お星さま」というニックネームがついたようで、悩み事のなくなったわんぱく3人組もなんだか穏やかな様子です。ずっと謝ろうと思ってたクラウディアの表情もとっくにあのことを忘れてるようで、改まることもない気がしましたが2人っきりになったらちゃんと謝ろうとハルトは思いました。


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「どうしてしばらく来なかったんだい?」

ノブオが問いかけるとハルトはもじもじとザリガニヘアーの悩みを打ち明けました。すると…


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「そういえばそのヘアースタイル、クワガタみたいでかっこいいじゃないか!なにボケッとしてるんだよ。ほら!」

ひざとひざをスリスリさせて不安そうに俯くハルトにマクロはボールを放り投げました。そしてノポがおいしい湯気を見つけるまでみんなで仲良く遊びました。

おしまい